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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)1461号 判決

上告人

中西冬雄

被上告人

谷本酒店こと

谷本義正

右訴訟代理人弁護士

前田修

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人本人の上告理由について。<省略>

同二及び三について。

本件記録に徹するに、上告人は、第一審及び原審を通じて、隠れた取立委任裏書及び原判示特約による抗弁を主張したにとどまり、所論消滅時効について何らこれを主張援用をしていない。かかる場合、裁判所は右消滅時効を援用するか否かを当事者に確むべき責務はないのであるから、原審がこれを確めなかつたからといつて所論釈明権不行使の違法があるとはいえない(昭和二七年(オ)第五四五号同年一一月二七日第一小法廷判決民集六巻一〇号一〇六二頁参照)。また、一旦終結した弁論を再開するか否かは裁判所の自由裁量により決しうるものであつて、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求しうるものではなく(昭和二三年(オ)第五八号同年一一月二五日第一小法廷判決民集二巻一二号四二二頁参照)、これを本件記録に徹するに、第一審及び原審の審理経過に鑑み、原審が所論再開申請を容れないで原判決の言渡をしたからといつて、不当とはいえない。されば、論旨はいずれも理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官長部謹吾 裁判官入江俊郎 斉藤朔郎 松田二郎)

上告人の上告理由

一、<省略>

二、本件約束手形によればその支払期日は昭和三五年一二月一〇日となりその満期日被上告人の支払呈示なく昭和三七年に至り初めて本件訴訟によりその支払を上告人に求めたものである。

然るに手形法第七〇条第七七条第一項によれば本件手形の裏書人たる上告人の責任は満期後一年にて消滅時効にかかりその始期は昭和三五年一二月一一日終期は昭和三六年一二月一〇日である。

そこで上告人は原審にて口頭弁論の再開を求めて之れを主張したのであつたが原審は遂に之れを容ることなく判決してしまつた。

右法条を適用していたならば之れが判決に影響を及ぼすこと明らかとなるのである。

三、上告人は第一審訴訟により答弁書を提出した儘勝訴する積りでいたのであるが控訴審に至り上告人の思惑どおりに裁判所は見てくれないものと考え終結した口頭弁論に於て右事情を述べるため事由を詳記した口頭弁論再開の申立をなしたが原審は之を容ることなく判決を言渡してしまつた。

本件につき上告人は本人訴訟であるので民事訴訟法第一二七条により事実関係法律上の問題につき上告人に求問するのが経験則である、これによつて何にも判らない本人当事者は手形という極めて技術的な訴訟について相手方に対抗し得ることになるのである。

亦現在の訴訟では本人訴訟の場合こうして裁判所より問題になる点を指摘して貰い訴訟技術のみではなく真実の関係を裁判所に提出して判断して貰つているのが大部分である。

従つて上告人は控訴審に於いて不備の点を申出で口頭弁論を再開して貰い右事情を陳述しようと考えていたのである、民事訴訟法第一二七条の規定は右の意味に於いて裁判官の権利であると共に経験なき本人訴訟に於て之を釈明するのは裁判官の義務であると考えられるそうでないとするなれば裁判所で訴訟するのは全て弁護士にして本人当事者ではいけないとする他本人当事者を専門技術だけの問題で実質上本人当事者の訴訟進行権を封ずると同じ結果を導くこととなるそうだとすれば控訴審は終結した口頭弁論を再開するが道理であり、これに違反したのは民事訴訟法第一二九条に違反するもので之により判決に影響を及すことになること明白である。

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